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子宮体がん
子宮体がんとは
腟の奥に子宮があります。子宮は腟側の“子宮頸部”とその奥の袋状の“子宮体部”に分けられます。この子宮体部から発生したがんを子宮体がんといいます。子宮内膜由来の子宮内膜がんと、その他の部分が悪性化した子宮肉腫などが含まれますが、後者は比較的まれで子宮筋腫との鑑別が問題となります。
子宮内膜がんの発症年齢は、閉経前後の40代後半から増加して50~60代にピークを迎えます。国立がん研究センターがん情報サービスでの“癌統計”によれば2019年の罹患数は17880人でした。このデータからは本邦の女性48人に1人が子宮体癌にかかることになります。
症状
不正性器出血が代表的です。出血は褐色の帯下(おりもの)だけの場合もあるので注意が必要です。不正性器出血が長く続く場合や、閉経後に出血がみられる場合などは婦人科で診てもらうことが重要です。
がんが進行すると膿や血液の混じった帯下(おりもの)や下腹痛、性交痛、腰痛、下肢むくみなどの症状が出ることがあります。
診断
子宮体がんの診断には、「がんがあるのか?がんがあるとしたら、どんなタイプのがんなのか?(子宮体がんの存在の診断)」と「あるとすればどこまで広がっているのか?(広がりの診断・治療方針の決定に必要)」を調べる検査が必要になります。
● 子宮体がんがあるかどうかを調べるための検査
- ・経腟超音波検査
子宮体がんになると子宮内膜の厚みが増します。それを超音波でチェックするものです。疼痛が少なくスクリーニングの方法としては有用なのですが、確定のためには後述の組織診が必要です。また、閉経前では判断が難しいことや、初期のがんは見逃されることがあるなどの問題点があります。 - ・細胞診
細胞を直接採取します。子宮口から細い器具を挿入し子宮内膜の細胞を採取します。確定診断ではないので細胞診で異常が疑われる場合は組織診を行います。
子宮内膜細胞診の精度は高くないこと(がんなのにがんでないと判定される)に注意が必要です。 - ・組織診
細胞診と同様に子宮口から器具を挿入し子宮内膜の組織を採取します。がんが認められれば子宮体がんが確定します。 - ・子宮鏡検査
細胞・組織の採取が困難な場合、子宮の中をスコープ(子宮鏡)で観察しながら組織を採取することもあります。
* 高齢の方やお産をしたことのない方では子宮口が狭くなっている、あるいは閉じてしまっていて検査ができない場合もあります。また、痛みが強いため、十分な細胞や組織が取れないこともあります。そのような場合は、あらかじめ子宮口をひろげる処置や麻酔下での検査を行うこともあります。
● 子宮体がんと診断された場合の広がりを調べる検査(治療方針の決定に必要)
- ・MRI
子宮の壁にがんがどれだけ食い込んでいるか(筋層浸潤)、子宮に隣接する卵巣・卵管にがんの進展がないかを評価します。 - ・CT、PET-CT
全身の臓器やリンパ節にがんの転移がないかを評価します。
治療
子宮体がんの治療は手術が主体です。術後は手術所見・病理診断を検討して進行期分類(表1)と再発リスク分類(図1 低リスク群・中リスク群・高リスク群)を行い、追加治療の是非・方法を決定します。
● 手術
- ・術前推定I期
推定IA期ならば単純子宮全摘出術+両側付属器切除術が基本です。
また術前推定IA期の場合、腹腔鏡下手術やロボット手術(施設基準を満たすことが条件)が行われています。一方、がんの悪性度が高い場合や子宮筋層への浸潤が深い場合は後腹膜リンパ節郭清が選択されることもあります。リンパ節転移を評価することで最終的ながんの広がり(進行期)を評価します。 - ・術前推定II期
両側付属器切除術と後腹膜リンパ節郭清術も行います。なお、腹腔鏡下手術やロボット手術は適応外です。 - ・術前推定III期
がんの広がりを把握するため、手術を選択することが多いです。がんの状況に応じて単純子宮全摘出術、準広汎子宮全摘出術、広汎子宮全摘出術のいずれかを選択します。さらに両側付属器切除術やリンパ節郭清や生検を行います。また、開腹してがんの完全切除が困難と判断される場合、可能な限り腫瘍を切除する“腫瘍減量術”を行うこともあります。組織採取のみを行う試験開腹術を行い抗がん剤による化学療法で腫瘍縮小後再手術を行うこともあります。 - ・術前推定IV期
子宮の摘出と腫瘍減量術が推奨されます。また、肝臓や肺などへの遠隔転移があるIVB期でも子宮の摘出と腫瘍減量術によって残存腫瘍が1cm未満にすることができれば予後の改善につながることが知られています。III期と同様に組織採取のみを行う試験開腹術を行い抗がん剤による化学療法で腫瘍縮小後再手術を行うこともあります。
● 追加治療
- ・低リスク群
再発の可能性は極めて低いため追加治療はおこなわず、経過観察となります。ただ、再発の可能性はわずかながらありますので早期の発見をめざします。 - ・高リスク群
- ✓ 化学療法
抗がん剤治療です。ドキソルビシン+シスプラチン(AP療法)、パクリタキセル+カルボプラチン(TC療法)、ドセタキセル+シスプラチン(DP療法)の治療効果がいわれています。いずれかを3週間毎、3~6回投与します。
また、進行癌(III期、IV期)の場合、TC療法に免疫チェックポイント阻害剤であるペムブロリズマブの併用効果が指摘されています。また、TC療法に免疫チェックポイント阻害剤のデュルパルマブとPARP阻害剤のオラパリブの併用効果も報告されています。保険収載されていますが使用には条件があります。担当医と相談してください。 - ✓ 放射線療法
骨盤内再発を抑える効果はありますが、生存期間の改善はないとされています。本邦では腫瘍を十分切除する手術が行われることが多いため、放射線治療の頻度は多くありません。
- ✓ 化学療法
表1 子宮体がんの手術進行期分類(日産婦2011、FIGO2008)
I期:がんが子宮体部に限局するもの | ||||
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IA期 | がんが子宮筋層1/2 未満のもの | |||
IB期 | がんが子宮筋層1/2 以上のもの | |||
II期:がんが頸部間質に浸潤するが,子宮をこえていないもの* * 頸管腺浸潤のみはII期ではなくI期とする。 |
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III期:がんが子宮外に広がるが,小骨盤腔をこえていないもの,または所属リンパ節へ広がるもの | ||||
IIIA期 | 子宮漿膜ならびに/あるいは付属器を侵すもの | |||
IIIB期 | 腟ならびに/あるいは子宮傍組織へ広がるもの | |||
IIIC期 | 骨盤リンパ節ならびに/あるいは傍大動脈リンパ節転移のあるもの | |||
IIIC1期 | 骨盤リンパ節転移陽性のもの | |||
IIIC2期 | 骨盤リンパ節への転移の有無にかかわらず,傍大動脈リンパ節転移陽性のもの | |||
IV期:がんが小骨盤腔をこえているか,明らかに膀胱ならびに/あるいは腸粘膜を侵すもの,ならびに/あるいは遠隔転移のあるもの | ||||
IVA期 | 膀胱ならびに/あるいは腸粘膜浸潤のあるもの | |||
IVB期 | 腹腔内ならびに/あるいは鼠径リンパ節転移を含む遠隔転移のあるもの |
日本産科婦人科学会・日本病理学会編 子宮体癌取扱い規約 病理編 第5版.
東京: 金原出版; 2022. p. 16-17.
図1 子宮体癌術後再発リスク分類

日本婦人科腫瘍学会編 子宮体がん治療ガイドライン2023年版.
東京: 金原出版; 2023. 40.
https://jsgo.or.jp/guideline/js/pdfjs/web/viewer.html?file=/guideline/img/keiganguide2023_kihon.pdf
〔2025.3.27アクセス〕
図2 子宮体がんの進行期別5年生存率(対象:2017年の診断症例)

日本産科婦人科学会婦人科腫瘍委員会報告 第65回治療年報
日産婦誌. 2025; 77: 501
https://fa.kyorin.co.jp/jsog/readPDF.php?file=77/3/077030466.pdf
〔2025.3.27アクセス〕
再発がんに対する治療
- ● 手術
骨盤内の再発が単発の場合あるいは他臓器への単発転移の時に行われます。数カ所の再発・転移の場合、完全摘出が可能と判断されれば選択されることがあります。 - ● 化学療法
初回手術後の再発中リスク群・高リスク群と同様のAP療法、TC療法、DP療法が行われます。また、また、TC療法に免疫チェックポイント阻害剤であるペムブロリズマブの併用効果が指摘されています。また、TC療法に免疫チェックポイント阻害剤のデュルバルマブとPARP阻害剤のオラパリブの併用効果も報告されています。保険収載されていますが使用には条件があります。担当医と相談してください。 - ● がん免疫療法
子宮体がんの17%が高頻度マイクロサテライト不安定性がん(MSI-Highがん)です。MSI-Highがんは免疫チェックポイント阻害剤であるペンブロリズマブによる抗がん作用が期待でき、保険収載されています。いっぽう、MSI-Highの場合、遺伝性腫瘍であるLynch症候群(大腸がん、子宮体がん、尿路系がんなどになりやすい体質)の可能性があります。レンバチニブとペンブロリズマブの併用療法はMSI-Highでなくとも効果が期待できます。ただ、これらに特有の有害事象もあり、慎重な経過観察・対策が必要です。 - ● 放射線療法
腟断端のみの再発に有効との報告があります。しかし、複数の再発・転移がある場合、放射線単独の有効性は期待出来ません。現在、本邦では再発巣からの出血や疼痛を緩和する目的で選択されています。 - ● 黄体ホルモン療法
子宮体がんの多くは、発生や増殖に女性ホルモンが関連していると考えられています。再発がんで黄体ホルモン受容体陽性の場合、黄体ホルモン療法が選択される場合もあります。 - ● ベストサポーティブケア
手術、化学療法、がん免疫療法、放射線療法、黄体ホルモン療法のすべてあるいはいずれかを行い、効果が得られない場合は制がんに積極的な治療ではなく、症状を和らげる治療に専念すること(ベストサポーティブケア)も選択肢となります。
妊孕性温存療法
若年でごく早期の子宮体がんでは、妊娠できる状態を保持するために黄体ホルモン療法が行われることがあります。ただ、本邦では本療法後の経過観察中、子宮体がんで57%、子宮内膜異型増殖症の38%に子宮内再発との報告があります。がんの腹膜播種による死亡も含まれています。治療経験が十分にある施設で慎重に診断を行い、治療の是非を検討する必要があります。
- ● 対象
原則として40歳未満で妊孕性温存を強く望む方です。子宮体がんで、がんが子宮筋層には浸潤しておらず性質が比較的おとなしいタイプの類内膜がんが対象になります。前がん状態と考えられる子宮内膜異型増殖症も対象となります。 - ● 治療
高用量黄体ホルモン療法を連日内服し、定期的に子宮内膜掻爬・病理診断による評価を行います。 - ● 治療後の経過観察
3ヶ月ごとに子宮内膜組織診や経腟超音波検査を行います。再発予防のため低用量ピルや中用量黄体ホルモン剤の周期的内服を行うこともあります。 - ● 妊娠、不妊治療
本治療を行い腫瘍消退した20人中11人が妊娠し、7人が出産したとの報告があります。また、26人の妊娠をまとめた報告では15人が体外受精であったとの報告があります。若年性子宮体がんの方は排卵障害を伴っている場合が多いこと、また自然妊娠待機中の再発の危険性、を考え、積極的に排卵誘発を含む不妊治療を行う意見もあります。
ただ、排卵誘発の安全性を担保する十分な根拠はありません。慎重な経過観察が必要です。 - ● 無効例、再発例
子宮全摘術を行うことが望ましいと考えられています。妊孕性温存を強く希望する場合は治療経験が十分にある施設で慎重に評価し、再治療の是非を検討する必要があります。
子宮内膜異型増殖症
前がん状態と考えられる病変です。放置すると20%が子宮体がんに進展すること、子宮内膜組織診で子宮内膜異型増殖症と診断された場合の17~50%に子宮体がんが同時に存在していた、との報告があります。
- ● 治療
単純子宮全摘術を行います。腹腔鏡下手術やロボット手術も行われています。若年で妊孕性温存を希望する場合は黄体ホルモン療法を行うこともあります。