市民の皆さまへ

HPVワクチンについて

はじめに

子宮頸がんのほとんどは、性交渉によるヒト・パピローマウイルス(HPV)の感染が原因となって形成される前がん病変(CIN)を経て発生します。HPVには多くの「型」がありますが、そのうちがんと関係のある型は13~14種類です。HPVワクチンは、原因となるHPVの感染を予防することで子宮頸がんの発生を防ごうというものです。本邦でこれまで承認されてきたのは、2つの型(16・18型)の感染を予防する2価ワクチン(サーバリックス®)、4つの型(6・11・16・18型)の感染を予防する4価ワクチン(ガーダシル®)、9つの型(6・11・16・18・31・33・45・52・58型)の感染を予防する9価ワクチン(シルガード®9)で、9価ワクチンの接種によって子宮頸がんの原因になる約9割のHPV感染を予防できるとされています。

日本における接種状況

本邦においては、2010年度の終わりに公費助成(13歳~16歳)が開始され、当初の接種率は約7割という高いものでした。2013年4月からは定期接種(12歳~16歳)となったにも関わらず、HPVワクチン接種後の女子における「多様な症状」が繰り返し報道され、同年6月には厚生労働省により積極的勧奨の差し控えが発表されました。差し控えは8年半続き、この間接種率は1%にも満たない状況が続きました。2021年11月の厚労省の審議会で、HPVワクチンの安全性が確認され、子宮頸がん(浸潤がん)の減少効果も証明されたことを受けて、積極的接種勧奨が再開されることが決定されました。

2022年4月からは定期接種として12-16歳女子に対する個別通知による接種勧奨が再開し、接種券が郵送されています。2価や4価ワクチンは3回の接種が必要ですが、2023年4月からは、2回接種(初回と6か月後)の9価ワクチンが導入されています。8年半の間に定期接種の機会を逃した女性(1997年度生まれから2007年度生まれ)にもキャッチアップ接種として3年間の期間限定(2022年4月1日~2025年3月31日)で無料接種が行われました。キャッチアップ接種期間中(2022年4月1日~2025年3月31日)に1回以上接種しているキャッチアップ接種対象者、または2025年度に定期的接種の対象から外れた方(2008年度生まれの女子)は、キャッチアップ接種期間終了後1年間(2026年3月末まで)で残りの回数(キャッチアップの方は合計で3回)を公費で接種することができます。是非この期間に接種を完了していただきたいと思います。

有効性

HPVワクチンによるHPV感染(上記の型)の予防効果は極めて高く、特に初交前に接種した場合には感染をほぼ100%予防することができます。早くからHPVワクチンが導入された国においてはHPV感染、CIN、子宮頸がんのいずれもの予防効果も示されています。接種率が高い欧州からは90%近い子宮頸がんの減少効果が報告されています。日本においてもHPVワクチン接種によるHPV感染やCINの減少がすでに報告されています。接種率の高い国ではHPV感染が著明に減少し、ワクチンを接種していない人においても、性交渉によってHPVに感染する可能性が減少してHPV感染率が減少するという集団免疫効果も示されています。

安全性

海外ではHPVワクチンの安全性は広く認知されています。本邦でも、厚生労働省の祖父江班による全国疫学調査で、「多様な症状」がHPVワクチンを接種していない者においても認められることが示され、また名古屋市で行われた調査においては、「多様な症状」の頻度がHPVワクチン接種者と非接種者において有意な差が認められないことが報告されました。これらのことから、HPVワクチン接種と「多様な症状」の因果関係は否定的と考えられています。

本邦では、万一、HPVワクチン接種後に「多様な症状」が認められた場合への対応として、日本医師会・日本医学会から診療の手引きが発刊されており、また各都道府県には診療に係る協力医療機関も整備されています。すなわち安心してワクチン接種を受けられる体制が整えられています。

最後に

本邦においては、子宮頸がんの罹患率が20~40歳代の若年女性を中心に急増し、死亡率も上昇していることが判明しています。子宮頸がん検診によるCINの段階での早期発見・治療は重要で、そのためには検診受診が強く望まれますが、CINの治療として子宮頸部円錐切除術(子宮頸部の部分的な切除)を受けた場合には、その後の妊娠において早産が起こりやすいことが知られています。HPVワクチン接種により、CINや子宮頸がんになるリスク自体を減らしておくことが大切です。

海外ではすでにHPVワクチンと子宮頸がん検診による子宮頸がんの排除(elimination)が期待されています。世界保健機関(WHO)は日本を名指して、「弱い根拠に基づくHPVワクチンの積極的勧奨差し控えの政策判断が、将来、本来予防できたはずの子宮頸がんが増加するという真の被害を生み出すことになる」という趣旨の声明を発表しています。

厚生労働省による積極的勧奨は再開されましたが、その後もHPVワクチンの接種率は伸び悩んでいます。子宮頸がんの実情やHPVワクチンの有効性・安全性をしっかりご理解いただき、正しい予防行動をぜひお取りいただきたいと思います。ご質問などがございましたら、ぜひお近くの婦人科腫瘍専門医にご相談下さい。

HPVワクチンの安全性は再確認され、がん予防効果は明らかです。接種するかを悩まれている保護者、女性はすぐに接種行動を起こしていただきたいと思います。郵送された接種券を持参して産婦人科などの医療機関を受診して下さい。

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