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子宮筋腫

症状

子宮筋腫とは子宮を構成している平滑筋という筋肉組織由来の良性腫瘍で、比較的若い方から閉経後の方まで高頻度に見られる疾患です。特に症状もなく健康診断で偶然指摘されることも多くあります。

子宮筋腫は発生する部位により、漿膜下筋腫、筋層内筋腫および粘膜下筋腫に分類されます(図1)。また出血、壊死、石灰化、水腫様などの変性をおこすことがあります。

症状としては、過多月経、過長月経、月経痛、腹部腫瘤触知、貧血などがあります。さらに子宮筋腫が大きくなると周囲臓器を圧迫し、頻尿、排尿困難、便秘、腰痛などの症状もみられ、時には不妊や流早産の原因にもなります。症状の強さは子宮筋腫のある部位、大きさや個数などによって異なります。

漿膜下筋腫では月経痛、過多月経、過長月経などの症状はでにくいですが、茎部がねじれると激痛をおこすことがあります。粘膜下筋腫は、他の部位の筋腫に比べ、小さいうちから過多月経、過長月経、月経痛などの症状が出やすく、貧血にもなりやすいといった特徴があります。

図1

図1子宮筋腫

診断

内診と超音波検査、必要によりMRI検査などの所見を併せて診断します。画像所見が典型的な子宮筋腫の像でない場合や、閉経後に増大する場合には、稀な疾患ですが子宮由来の悪性腫瘍の一つである子宮肉腫を疑うことも必要です。

治療

子宮筋腫があっても症状がなく、それほど大きくないもの(手拳大以下)であれば、定期的に検診を受けるだけで、多くの場合には特に治療は必要としません。しかし、サイズの大きいもの、増大傾向が著しいもの、症状を伴い生活に支障が出る場合には治療を考慮します。

  1. 薬物療法
    1. 偽閉経療法:GnRH(ゴナドトロピン放出ホルモン)アゴニストあるいはアンタゴニストといわれる薬剤によって卵巣の女性ホルモン(エストロゲン)産生を抑えて筋腫を縮小させるもので、閉経が間近い場合や、重篤な合併症のために手術を避けたい場合などに行われる治療法です。投与方法は、GnRHアゴニストは月1回の注射あるいは1日2回の点鼻薬で、最近新しく承認されたGnRHアンタゴニストは1日1回の経口薬です。筋腫だけを取り除く子宮筋腫核出術の前治療としても有効です。治療中は無月経となるため症状は改善します。卵巣機能が抑制されるため更年期様の症状がみられます。骨量減少などの副作用もあることから6ヶ月以上の長期使用はできません。使用を中止すると子宮筋腫は再度大きくなり症状も再発します。
    2. 対症療法:子宮筋腫による過多月経、過長月経、月経痛などの症状を緩和するのを主な目的とする治療です。
      ①鉄剤:過多月経や過長月経による貧血に対して鉄剤が処方されます。
      ②非ステロイド性抗炎症剤:月経痛などの月経困難に対する疼痛コントロールを目的として投与されます。
      ③低用量エストロゲン・プロゲスチン配合剤(LEP製剤):月経困難を軽減することを目的とした治療方法です。子宮筋腫自体を小さくする治療ではありません。稀ですが血栓塞栓症などの重篤な副作用がみられます。
      ④子宮内黄体ホルモン放出システム:子宮内に黄体ホルモンを持続的に放出する装置を挿入し、子宮内膜の発育を抑制することで子宮内膜を薄くし、過多月経や月経困難を軽減する方法です。子宮筋腫自体を小さくする治療ではありません。定期的な交換が必要です。
  2. 手術療法
    1. 子宮全摘術:妊娠の希望や予定がなく、子宮温存の必要性がない場合の治療方法の一つです。開腹、腹腔鏡、腟側からの操作のみによる腟式の術式があります。近年、婦人科手術では腹腔鏡手術が普及し、腹腔鏡下子宮全摘術は病変の大きさや可動性の有無などを考慮して広く施行されています。腟式子宮全摘術は、経腟分娩歴があり、子宮の可動性が良く、腹腔内の癒着が想定されない場合に選択されることがありますが、腹腔鏡手術の普及により減少してきています。
    2. 子宮筋腫核出術:妊娠の希望や予定がある生殖年齢の方を対象とすることが多い手術方法です。子宮筋腫の部分だけをくり抜く方法で、妊娠に必要な子宮体部を残すことが可能です。発生部位、大きさや数などを考慮し、開腹手術か腹腔鏡手術かを選択します。子宮自体を残すため子宮筋腫が再発することもあり得ます。
    3. 子宮鏡下子宮筋腫摘出術:子宮腔内に突出したあまり大きくない粘膜下筋腫が対象となります。子宮筋腫の大きさや内腔への突出する程度によって手術の対象となりうるか決まります。
    4. 子宮鏡下子宮内膜焼灼術(マイクロ波子宮内膜焼灼術:MEA):子宮内に器具を挿入しマイクロ波によって子宮内膜を壊死させる方法です。子宮筋腫自体を治療する手術ではないため、子宮筋腫の縮小などは期待できません。過多月経などの症状緩和が期待でき低侵襲ですが、将来妊娠を望む場合には行えません。また子宮内腔や子宮壁の状態によっては適応とならないことがあります。
    5. 子宮動脈塞栓術(UAE):鼠径部から血管内にカテーテルを挿入し、X線透視下に血管塞栓物質を子宮動脈に詰め込み、血流を遮断することで子宮筋腫を縮小させる方法です。症状の緩和は期待できますが、治療後の疼痛、感染、発熱、倦怠感、卵巣機能低下など合併症もあります。また妊娠する機能も低下することが報告されています。合併症などにより手術が困難な場合や、緊急で出血のコントロールが必要な場合などに選択され、一般的には対象となる症例はあまり多くありません。

いずれの治療法にも長所と欠点があり、治療法の決定は年齢、今後の妊娠予定、子宮筋腫の大きさ、部位、数、癒着の有無などを考慮して決めます。これらのことを担当医から十分説明をうけ、納得した上で治療をお受けになることをお勧めします(表1

表1 子宮筋腫の治療

子宮筋腫 治療不要 経過観察
治療必要 薬物療法 対処療法 ・鉄剤
・非ステロイド抗炎症剤
・低用量エストロゲン・プロゲスチン配合剤(LEP製剤)
・子宮内黄体ホルモン放出システム
偽閉経療法 ・GnRH(ゴナドトロピン放出ホルモン)アゴニスト、アンタゴニスト
手術療法 妊娠希望あり ・子宮筋腫核出術
・子宮鏡下子宮筋腫摘出術
妊娠希望なし ・子宮全摘術
・子宮筋腫核出術
・子宮鏡下子宮筋腫摘出術
・子宮鏡下子宮内膜焼灼術(MEA)
・子宮動脈塞栓術(UAE)

子宮筋腫は良性であるため、治療を必要としない症例も多くあります。何らかの症状が生活の質を落とす状態にある場合に治療を検討するとよいでしょう。一方で手術など治療を受けても必ずしも症状がなくなるとは限りません。また通常は閉経後に増大し症状が増悪することは稀であるため、通院や治療の必要性についても担当医師と十分に相談してください。

【妊娠に子宮筋腫が合併した場合】
妊娠してはじめて子宮筋腫が発見されることもあります。子宮筋腫を合併していても、妊娠中に何もおこらず経過することもありますが、流早産や子宮筋腫の変性、分娩障害、産後出血などがおこることもあります。妊娠中の子宮筋腫に対しては、多くの場合で保存療法・経過観察が行われています。特に妊娠中の手術療法については、その必要性と安全性についてしっかり担当医と話し合い、十分に理解した上で受けるかどうかを決めてください。

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